再休職後の休職期間の上限をどのように考えるか?①
こんにちは。大野事務所の土岐です。
今回も実際にご相談いただいた事例を取り上げます。休職に関して就業規則に次の定めがあり、再休職を発令することとなった場合、再休職後の休職期間の上限をどのように考えればよいか、というご相談を受けました。
——————————————————————————–
<休職事由>
第✕✕条 社員が次の各号の一に該当するときは休職とする。
・業務外の傷病により欠勤が継続して1ヶ月以上に及んだとき。
<休職期間に関する規定>
第✕✕条 私傷病による場合の休職期間は、次のとおりとする。
(表)
勤続年数 |
1年未満 |
1年以上 |
休職期間 |
3ヶ月 |
6ヶ月 |
<再休職に関する規定>
・私傷病による休職から復職した者が、再度私傷病による休職事由に該当し、会社が休職の適用を命じた場合の休職期間は、上記(表)に定める休職期間から、既に休職した期間を減じた期間とする。この場合であって、休職の原因となる業務外の傷病が復職後1年以内に再発したものであると認められるときには、欠勤開始時点から直ちに休職とする。
——————————————————————————–
ご相談の具体的な内容は、「私傷病による2ヶ月の休職から復職した社員について、当初の休職発令時は勤続年数が1年未満であったため、休職期間の上限は3ヶ月でした。もしもこの社員が同一傷病により欠勤し、再休職を発令する場合、再休職発令時は勤続年数が1年以上となります。この場合、休職期間の上限は以下の①、②が考えられますが、どちらの考え方とするのが良いでしょうか」というものです。
① 3ヶ月から既に取得した2ヶ月を減じ、休職期間の上限は1ヶ月とする
② 6ヶ月から既に取得した2ヶ月を減じ、休職期間の上限は4ヶ月とする
休職制度は法で定められたものではなく、会社独自の設計が可能となりますので、就業規則の規定による、ということになるのはご存じのとおりかと思われます。ご質問のケースでは、「再休職の際の休職期間の上限は、いつ時点の勤続年数を適用するのか」という点がポイントといえますが、①および②の考え方はそれぞれ次のようになりますでしょうか。
① 3ヶ月から既に取得した2ヶ月を減じ、残る休職期間の上限は1ヶ月とする考え方
「再休職の場合であっても、当初の休職発令日における勤続年数による休職期間の上限に変更はない」という考え方になります。会社様側の視点として、このように考えたい気持ちは理解できるのですが、一方で、「再休職の場合であっても、当初の休職発令日における勤続年数に基づいた休職期間とする」とまで規定からは明確に読み取れない点について、社員から疑義を申し立てられる可能性がありそうです。
② 6ヶ月から既に取得した2ヶ月を減じ、残る休職期間の上限は4ヶ月とする考え方
再休職発令日における勤続年数に着目し、休職期間の上限が決定する考え方となり、社員にとっては①に比べて当然有利となりますので、休職期間の考え方をめぐるトラブルに発展する可能性はないでしょう。ただ、今後もこの考え方に統一して運用することが求められる点には注意が必要です。
さて、①・②の考え方の両方が成り立つものと考えますが、どちらが妥当かと問われれば、私は②の考え方が妥当と考えます。理由として、①の考え方は規定上明らかではないこと、また、②の考え方であれば、当該社員に対して休職制度上の最大限の措置を講ずる姿勢を示すことになり、社員も納得感を得られるであろうことが挙げられます。
これまでに私が拝見した会社様の休職に関する規定は様々な規定ぶりとされており、その解釈が難しい、あるいは、いかようにも解釈できてしまい不明瞭であると思われる例がいくつかありました。ただ、あまり詳細に規定することで、かえって読みづらく、意図がわかりにくくなるといったご意見もあり、その会社様にとって一番良い規定方法にたどり着くまでにはそれなりの検討を要します。
また、休職制度に限らず、実務面において規定上の解釈に疑義が生じることはよくあります。各制度や規定について考え方を整理し、必要に応じて規定を改定する、規定の改定までは要しないと判断した場合には解釈を統一しておき、社員からの問い合わせがあった際には一貫した回答ができるよう、一度あるいは定期的に整理すると良いのではないでしょうか。
今回のコラムは以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
幕張第2事業部 グループリーダー
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2022.06.29 大野事務所コラム
- 妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」と「ハラスメント」の違い
- 2022.06.27 これまでの情報配信メール
- 外国人労働者問題啓発月間・令和4年度の算定基礎届の記入方法等について
- 2022.06.22 大野事務所コラム
- 人材版伊藤レポート(2.0)
- 2022.06.15 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第8回)
- 2022.06.13 これまでの情報配信メール
- 月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げおよび労働基準関係法令違反に係る公表事案
- 2022.06.08 大野事務所コラム
- コンフリクトの解決モード―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑲
- 2022.06.01 大野事務所コラム
- 社会保険の適用拡大について
- 2022.05.26 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【今国会で成立した労働関係法案】
- 2022.05.26 これまでの情報配信メール
- 「シフト制」労働者の雇用管理に関するリーフレット
- 2022.05.25 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第7回)
- 2022.05.20 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【内定取消しの法的性質と有効性】
- 2022.05.18 大野事務所コラム
- 「育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A」が公開されました
- 2022.05.11 大野事務所コラム
- パート有期法第13条・第14条への対応は出来ていますか
- 2022.05.11 これまでの情報配信メール
- 育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A
- 2022.04.27 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第6回)
- 2022.04.26 これまでの情報配信メール
- 労働保険の年度更新および「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」について
- 2022.04.22 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【同一労働同一賃金とは】
- 2022.04.20 大野事務所コラム
- 「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」が公表されました
- 2022.04.13 大野事務所コラム
- オレンジゲーム―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑱
- 2022.04.12 これまでの情報配信メール
- 育児・介護休業法関連の資料および令和4年度の雇用保険料率の変更について
- 2022.04.06 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第5回)
- 2022.04.01 法改正情報
- 法改正情報(2022年1月1日以降施行)
- 2022.03.30 大野事務所コラム
- 大企業、中小企業の定義について
- 2022.03.28 これまでの情報配信メール
- 女性活躍推進法の改正および年金手帳の新規交付の終了について
- 2022.03.25 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
- 2022.03.23 大野事務所コラム
- 新しい育児休業制度と改正法施行日との関係
- 2022.03.18 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【副業・兼業への企業対応】
- 2022.03.16 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第4回)
- 2022.03.11 これまでの情報配信メール
- 各保険における令和4年度の保険料率の変更について
- 2022.03.10 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
- 2022.03.09 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2022.03.09 大野事務所コラム
- 企業白書が提言する労働法制の見直しとは
- 2022.03.02 大野事務所コラム
- 在籍型の出向者のみで構成される出向先企業に労働者名簿、賃金台帳の調製義務はあるのか?
- 2022.03.01 これまでの情報配信メール
- 改正育児・介護休業法に関するQ&Aの内容紹介等
- 2022.02.23 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第3回)
- 2022.02.16 大野事務所コラム
- 「対立」は当然に起こり得る―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑰
- 2022.02.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【職場でのハラスメント対策(後編)】
- 2022.02.14 これまでの情報配信メール
- パワハラ防止対策(改正労推法) 自主点検サイトのご案内
- 2022.02.09 大野事務所コラム
- 衛生管理者の「専属」とは
- 2022.02.02 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第2回)