子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得に関し、1日の取得上限回数を定めることは問題ないか?
こんにちは、大野事務所の土岐です。
2021年1月1日より、育児・介護休業法施行規則等の改正により、子の看護休暇、介護休暇(以下、看護・介護休暇)が時間単位で取得できるようになります。
改正内容を簡単にまとめますと、これまで看護・介護休暇は半日単位での取得が可能とされていたところ(1日の所定労働時間が4時間以下の場合は取得不可)、改正後は1時間を最小単位として、労働者の希望する時間数での取得を可能とするものです(労使協定により適用除外とされた者を除く)。
なお、時間単位の取得は「始業時刻から連続または終業時刻まで連続して取得することを認めるもの」とされています。さらに、法を上回る制度として、分単位での取得や、就業時間の途中に時間単位の休暇を取得する、いわゆる「中抜け」を認めることも可能です。
この改正に関してお客様より、次の制度としたい旨のご相談をいただきました。内容は、「法律の定めを上回る中抜け取得を認めることとしたいが、管理面が煩雑とならないように、1日の取得上限回数を2回と定めたい」というものでした。
現在はほぼ全ての社員がリモートワークをされているとのこと、さらに看護・介護休暇は従来から有給と定めており、この制度は社員のみなさんにとって活用しやすい制度となりそうです。
会社としては社員のみなさんが働きやすい制度としたい考えがある一方で、何度も中抜けを認めるのは管理面の煩雑さのみならず、業務遂行の面からも果たして効率的なのかが気になることはたしかに理解できます。
このようなことから、1日の取得上限回数の定めをおくこととしたいとのことでしたが、ここで注意しなければならないのは「始業時刻から連続または終業時刻まで連続して取得することを認めるもの」とされている点です。こちらは育児介護休業法施行規則第34条第1項および第40条第1項に規定されているのですが、つまり、「始業または終業時の休暇は申し出があれば必ず取得可能としてくださいね」という解釈になるのです。
そうなりますと、例えば、始業時および中抜け時に看護・介護休暇を取得すると、この時点で上限の2回に達してしまうことになります。この後、何かしらの理由により、終業時にかけて看護・介護休暇の取得申し出があった場合に、取得回数の上限に達したことを理由として拒むことは、上記施行規則の定めに抵触してしまうということになるわけです。
そこで、「1日の取得上限は『原則として』2回までとする」こととしながら、始業・終業時にかかる取得は必ず認めることとして、運用を開始する方向となりました。
今回の改正内容に関して、行政からリーフレットやQ&A等が公表されていますが、私が確認した限り、「1日の取得回数」という視点から触れられているものは特段なく、ご相談のケースのように、意図せず法の定めに抵触してしまうおそれがあるのだなと思った次第です。
たしかに施行規則を読めば、「始業時刻からまたは終業時刻にかけての1日2回の取得」は担保されていることが読み解けます。しかし、ただでさえ難解な育児介護休業法等の条文から、ここまでの理解をするのは難しいのかもしれません(私も行政に電話確認し、話の整理ができたものでした)。
特に育児介護休業等に関しては、法の定めを上回る制度を導入しているお客様も少なくありません。法改正による制度改定や、新規のお客様の規程を拝見する際などには、果たして本当に法に抵触していないか、また、各制度に規定および運用上の不整合が生じていないかの確認には神経を使うところです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
幕張第2事業部 グループリーダー
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2022.08.05 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【企業に求められている労働時間の把握・管理方法とは】
- 2022.08.03 大野事務所コラム
- ホオポノポノ―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑳
- 2022.08.02 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【退職者やフリーランスに対する競業制限の限界】
- 2022.07.27 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第10回)
- 2022.07.26 これまでの情報配信メール
- 男女間賃金差異の情報公表、副業・兼業ガイライン改定
- 2022.07.20 大野事務所コラム
- 育児介護休業規程は必要か?
- 2022.07.13 大野事務所コラム
- 男女間の賃金差異の開示義務化
- 2022.07.11 これまでの情報配信メール
- 今後施行される人事労務に関する法改正情報等
- 2022.07.06 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第9回)
- 2022.06.29 大野事務所コラム
- 妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」と「ハラスメント」の違い
- 2022.06.27 これまでの情報配信メール
- 外国人労働者問題啓発月間・令和4年度の算定基礎届の記入方法等について
- 2022.06.22 大野事務所コラム
- 人材版伊藤レポート(2.0)
- 2022.06.15 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第8回)
- 2022.06.13 これまでの情報配信メール
- 月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げおよび労働基準関係法令違反に係る公表事案
- 2022.06.08 大野事務所コラム
- コンフリクトの解決モード―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑲
- 2022.06.01 大野事務所コラム
- 社会保険の適用拡大について
- 2022.05.26 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【今国会で成立した労働関係法案】
- 2022.05.26 これまでの情報配信メール
- 「シフト制」労働者の雇用管理に関するリーフレット
- 2022.05.25 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第7回)
- 2022.05.20 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【内定取消しの法的性質と有効性】
- 2022.05.18 大野事務所コラム
- 「育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A」が公開されました
- 2022.05.11 大野事務所コラム
- パート有期法第13条・第14条への対応は出来ていますか
- 2022.05.11 これまでの情報配信メール
- 育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A
- 2022.04.27 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第6回)
- 2022.04.26 これまでの情報配信メール
- 労働保険の年度更新および「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」について
- 2022.04.22 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【同一労働同一賃金とは】
- 2022.04.20 大野事務所コラム
- 「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」が公表されました
- 2022.04.13 大野事務所コラム
- オレンジゲーム―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑱
- 2022.04.12 これまでの情報配信メール
- 育児・介護休業法関連の資料および令和4年度の雇用保険料率の変更について
- 2022.04.06 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第5回)
- 2022.04.01 法改正情報
- 法改正情報(2022年1月1日以降施行)
- 2022.03.30 大野事務所コラム
- 大企業、中小企業の定義について
- 2022.03.28 これまでの情報配信メール
- 女性活躍推進法の改正および年金手帳の新規交付の終了について
- 2022.03.25 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
- 2022.03.23 大野事務所コラム
- 新しい育児休業制度と改正法施行日との関係
- 2022.03.18 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【副業・兼業への企業対応】
- 2022.03.16 大野事務所コラム
- シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第4回)
- 2022.03.11 これまでの情報配信メール
- 各保険における令和4年度の保険料率の変更について
- 2022.03.10 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
- 2022.03.09 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました