時間外労働の上限規制
こんにちは。大野事務所の深田です。
いわゆる働き方改革による一連の法改正が、2019年4月を皮切りに順次施行されています。その中でも目玉の一つとされたのは、労働基準法の改正による時間外労働の上限規制です。「時間外労働の上限規制が導入される」ということに加え、「罰則付き」という点も報道などでは強調されていたように思います。
今年6月に東京労働局から公表された「東京労働局管内における令和元年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果について」によれば、監督指導を行った630事業場のうち違法な時間外労働が確認された事業場は264ありました。全体の41.9%ということで、前年度の同比率は36.1%であることから、まだまだ法令違反の解消は進んでいないことが伺えます。
さて、法改正前においても時間外・休日労働は36協定において定めた範囲内に限られていたわけですが、とりわけ特別条項においては設定できる延長時間に上限がなかったことが問題視されていました。36協定で定める延長時間を超過した場合には、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を定める労基法第32条違反となり、この違反に対しては6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が付されています。
このように従来から36協定違反に対しては罰則があったところ、では罰則付きとされる「時間外労働の上限規制」とは法改正のどの点を指しているのでしょうか。36協定に関連する今回の主な改正点は次のとおりです。
①時間外労働の限度時間である「1か月45時間」および「1年360時間」が、労基法に規定された。(従来は大臣告示での定め)
②特別条項適用の有無にかかわらず、「1か月の時間外労働時間および法定休日労働時間の合計は100時間未満」かつ「時間外労働時間および法定休日労働時間の合計は過去「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり 80 時間以内」との上限が労基法に規定された。
③特別条項を適用する場合、「1か月の時間外労働時間および法定休日労働時間の合計は、100時間未満」、「1年の時間外労働時間は720時間以内」との上限が労基法に規定された。
厚生労働省が作成しているパンフレットを読む限りでは、これら全てを指して「時間外労働の上限規制」と言っているようです。
①に関しては、当該限度時間が従来は法律ではなく告示に基づくものであったという点において、法的拘束力を有するものではありませんでした。とはいえ、仮に特別条項を設定しない中で労使協定に定めた限度時間を超過すれば労基法第32条違反となり、その意味では事実上従来からあった規制だといえます。
新たに導入された規制ということでの本丸は②と③、とりわけ②ということになります。「罰則付き」という点についても、②を規定している労基法第36条第6項の違反に対するものです(労基法第32条違反と同様、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。
②の規制で重要な点は、特定の一個人が超過してはならない絶対的な上限だということです。つまり、①の限度時間については当該協定が適用される事業場ごとに考えればよいわけですが(例えば兼業している場合に、各勤務先での時間外労働時間を合計したものが45時間以内に収まっていないといけないという考え方ではありません)、②の上限規制は健康管理の観点から一個人に対して適用されるものであるため、兼業のように複数の事業場で就労しているのであれば労基法第38条第1項の規定により各勤務先での時間外・休日労働時間数を通算し、その時間数が上限を超えないようにしなければなりません。そのような考え方であるため、実務的な障壁はあるにしても、転職者については前職での時間外・休日労働の実績を加味する必要が本来はあります。
③に関しては、特別条項適用時の延長時間の上限が年間で設定され、月間の上限については②の規制に則したものとなっています。なお、②で「特別条項適用の有無にかかわらず」としているのは、法定休日労働の時間数も含めた時間数での上限規制であるため、時間外労働が月45時間以内であって特別条項を適用しない場合でも、法定休日労働が多いことで上限規制に抵触し得るためです。
執筆者:深田

深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/執行役員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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