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妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」と「ハラスメント」の違い

パートナー社員の野田です。

 

皆様は、妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」と「ハラスメント」の違いについて認識されておりますでしょうか。言葉が違うだけで同じことを意味しているとお考えの方も多いのではないかと思いますので、今回は根拠条文を含め、二つの違いについて整理します。

 

根拠となる法律は、男女雇用機会均等法(以下「均等法」)と育児介護休業法(以下「育介法」)ですが、均等法の対象となるのは「妊娠・出産等」であり、育介法の対象となるのは「育児・介護休業等」であることの違いを認識する必要があります。

 

  • ○妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」とは

 

<男女雇用機会均等法第9条第3項、第4項>

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

 

<育児・介護休業法第10条>

事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

※育児休業の他、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置について申出をし、又は制度を利用したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いについても禁止しています。(育介法第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2)

 

両法の不利益取扱いの判断要件となっている「理由として」とは、妊娠・出産・育児休業等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指しますが、妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」(※)不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解され、法違反となる点、留意する必要があります。

 

※「契機として」

例外に該当する場合を除き、原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断されますつまり、直接的な関係が無くても、1年以内に解雇や雇止めをした場合は、原則として法違反とされます。また、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又は、ある程度定期的になされる措置(人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後の最初の当該措置の実施までの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断されます。

なお、例外事由として、以下2つが挙げられています。

 

例外①:業務上の必要性から不利益取扱いをせざるをえず、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情が存在するとき。

 

例外②:労働者が当該取扱いに同意している場合で、有利な影響が不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき。

 

 

私が実際に対応した事例として、能力不足(ミス多発)、協調性不良(指示命令違反多発)および社員不適格(飲み会の場で上司や同僚の悪口を言う)とされる社員を解雇しようと、準備を進めていた顧問先企業様がありましたが、タイミング悪く、解雇予告を行おうとした矢先に妊娠したことが発覚しました。会社としては、正当な理由に基づき解雇する予定でおりましたが、妊娠から1年以内の解雇は均等法第9条第3項、第4項違反になるということで、東京労働局より指導を受け、最終的には1年分の金銭を支払うかたちでの合意退職となりました。

妊娠・出産等理由とする、又は育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの例

・ 解雇すること。

・ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

・ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

・ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

・ 就業環境を害すること。

・ 自宅待機を命ずること。

・ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。

・ 降格させること。

・ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

・ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

・ 不利益な配置の変更を行うこと。

・ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

 

 

  • ○妊娠・出産・育児休業等を理由とする「ハラスメント」とは

 

<男女雇用機会均等法第11条の3(抄)>

  • 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

 

<育児・介護休業法第25条>

事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

 

「不利益取扱い」および「ハラスメント」のいずれも事業主が主語となっていますが、「不利益取扱い」については、解雇やその他不利益な取扱い(降格、異動、減給など)をしてはならないとしていることから、当該権限を持ち合わせている行為者は、使用者等一部の者に限られます。

一方、ハラスメントについては、事業主に対し体制の整備や措置を講ずることを義務付けるものですが、ハラスメント行為者は、使用者等に限らず、同僚や部下など一般の労働者も含まれます。

妊娠・出産等理由とする、又は育児休業等の申出・取得等を理由とするハラスメントの例

・ 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を上司に相談したところ、上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと。

・ 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し、請求を取り下げるよう言うこと。

・ 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、請求をしないように言うこと。

・ 労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、その請求等を取り下げるよう言うこと。

 

以上から、「不利益取扱い」とは、「使用者等による解雇・人事権の濫用」のことであり、「ハラスメント」とは、「使用者・上司・同僚等の言動により労働者の就業環境を悪化させる行為」と換言できるのではないでしょうか。

 

最後に両者の行政指導の違いについて触れます。

 

「不利益取扱い」に関する規定に抵触する場合、その行為自体が法違反となれば、労働局の行政指導の対象となり、助言・指導・勧告・企業名公表の対象となりますが、「ハラスメント」については、ハラスメントを起したことそれ自体に対する法違反というものではなく、相談窓口が設置されていないなど事業主としての責務を果たしていないことに対し行政指導を行うものです。

 

行政(労働局)はハラスメントに該当するか否かを判断する立場にないことから、労働者・被害者等が個別具体的な案件を行政窓口に相談したとしても、それを受けて事業主や加害者との間に立って問題解決するようなことには至りません。よって個別案件については、社内・社外のハラスメント相談窓口を利用して問題解決するか、それでも解決しない場合には、ADR、労働審判、裁判といった別の機関で紛争解決を行うこととなります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

パートナー社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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