デジタル庁の発足と今後の社会保険関連手続
こんにちは、大野事務所の土岐です。
3年前(2018年7月3日)の日経新聞に、次の記事が掲載されました。
「政府は2021年度を目標に企業による税・社会保険料関連の書類の作成や提出を不要にする検討に入った。…(略)…企業は給与情報などをクラウドにあげ、行政側がそのデータにアクセスし、手続きを進める形に変える。官民双方の事務負担を減らして生産性を高め…(略)…IT総合戦略本部が2019年3月までに実現に向けた工程表を示す。」
書類作成や提出を不要とする具体的な手続き名称は触れられていませんでしたが、私は算定基礎届(定時決定)、月額変更届(随時改定)、賞与支払届などが対象となるのではと想像しました。ただ、定時決定や随時改定に関していえば会社ごとに手当等の支給項目は様々であること、遡及支給が発生した場合にはどうするのだろうかといったこと、また、随時改定の起点となる固定的賃金の取扱いなども会社によって様々であることなど、画一的・統一的に処理を行うにあたっては実務の視点からは実現するのがなかなか難しいのではないか、と当時は考えたものです。
さて2021年度となった今、上記の構想は残念ながら実現していません。立ち消えとなったのかと思いインターネットで調べてみると、IT総合戦略本部のホームページに掲載されている「デジタル・ガバメント実行計画(2020年12月25日閣議決定)」に、関連するのではないかと思われる記載がありました。こちらでは社会保険オンラインシステムについて、「①『記録管理システム』及び『基礎年金番号管理システム』の刷新」、「②『年金給付システム』の刷新」、「③現行の情報システムの改善」について取り組む旨の記載があります。
こちらでは書類作成や提出を不要とすることの関連性がよくわかりませんでしたが、2021年6月18日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によりますと、「社会保険・税手続のワンストップ化・ワンスオンリー化の推進」の項に、次の記載があります。
「民間事業者がクラウドサービス上にデータを記録し、行政機関等が当該データを参照して社会保険・税手続を行うこと(社会保険・税手続の新たな提出方法)について環境整備を行い、…(略)…クラウド提出済のデータを確定申告等において利活用することを検討し、令和5年(2023 年)1月以降の実現を目指す。さらに、国民・事業者の負担軽減が見込まれるその他の手続についても、令和4年度(2022 年度)以降の対象拡大に向けて検討を進める。」
このように、冒頭の記事と同じような内容が施策の一つに挙げられています。ただ、実現時期についても触れられてはいますが、マイナンバーカードの普及およびマイナンバーの利活用促進の他、様々な施策のうちの一つですので想定通りに進むのかが気になるところではあります。
なお、ここで述べられている様々な施策は、先日9月1日に発足したデジタル庁が司令塔となって推し進めるということです。デジタル庁が掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」のミッションのもと、様々な施策がどのように進展していくのか、今後の動向に注目したいと思います。
以上、「社会保険関連手続が変わっていくようです」ということを述べましたが、みなさんの身の周りでも様々な変化が起こっているのではないでしょうか。我々の業界に関していえば、いわゆるHRテックと呼ばれる各種アプリケーションや業務支援ツールの開発・導入が進んでおり、これらのリテラシーを身につけなければ今後置いていかれてしまうことになるでしょう。
この先どのような動きや変化があるのか、また、変化に対応するにはどうすればよいのかを日頃から意識して考えることで、今後の業務への進め方や取り組み方、あるいは自分が得るべき知識やスキルなどが具体的になり、自分がどうなりたいのか、どう行動すると良いのかが見えてくるのだと思います。これからはますます「先を見据えて考える力、行動・実行し実現する力」が求められるような気がしています。
最後にあれこれと申し上げましたが、まずは私自身が実践しなければと思った次第です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
幕張第2事業部 グループリーダー
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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