コロナ禍で考える「災害時等休業給付金(仮称)」
こんにちは、大野事務所パートナー社員の野田です。
先週はベーシックインカムについて取り上げましたが、今回は「災害時等休業給付金(仮称)」について考えたいと思います。
コロナ対応における事業主への助成金制度として雇用調整助成金や持続化給付金がありますが、雇用調整助成金については、手続きの煩雑さや分かり難さから複数回に渡り簡素化され、また特例措置が設けられております。それにもかかわらず、助成金が支給されるまでに手間や時間が掛かることから、いまだに当該制度に対する否定的な声が聞こえてきます。
今回のコロナ対応でもそうですが、私が日頃から思うのは、国の事業主に対する要求が多すぎるということです。非常事態にあっても事業主(企業)任せにし過ぎていると感じます。
事業主にとって給与の支払いは大きな問題でありますが、それ以外にも家賃や在庫問題など、事業を継続するうえでやらなければならないことは山ほどあるため、このような時こそ事業主の負担を軽くすべきではないでしょうか。
先週あたりから政府も検討を始めたようですが、休業中の労働者に雇用保険の失業給付制度を適用する動きがあり、あまり認知されておりませんが「災害時における求職者給付の支給に関する特例措置」というものです。
この特例措置の目的は、災害によりその雇用される事業所が休業することとなったため、一時的な離職を余儀なくされた方に雇用保険失業給付の基本手当を支給することにより、生活の安定を図ろうとするものであり、地震・豪雨・台風などの影響により休業を余儀なくされた場合に適用されています。
■厚生労働省HP:災害時における雇用保険の特例措置等について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134526_00001.html
コロナ禍においても、飲食業、小売・卸売業、接客・サービス業など、行政からの自粛要請によって一定期間休業や営業自粛を余儀なくされた事業主に対し、災害時同様に当該特例措置を適用して、休業者が直接申請できるというものですが、当該制度を利用するためには休業手当の支払い問題をクリアにする必要があります。
休業となると労基法第26条の休業手当の問題が絡んでくる訳ですが、感染症拡大防止に伴う自粛要請休業については「事業主都合による休業にはあたらない」として早々に判断できなければ、当該給付制度を活用することが出来ません。
今回のコロナ禍では、自粛要請に応じて休業した場合でも多くの企業が休業手当を支給(休業補償)したうえで助成金申請を行っていますので、第2波、第3波が来ることを想定し今後、当該制度を適用する方向にあるのであれば、行政にはこのあたりの考え方や取扱い基準について明確にしてもらいたいものです。
仮に当該特例が適用された場合、申請者が一度に職安窓口に駆け込み、行政崩壊が発生することが懸念されます。また当該給付金を申請するうえでは、休業直前までの賃金登録が必要となりますが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の社会が進み、前年度の収入や所得は勿論のこと、前月までの月次給与額や賞与額などがタイムリーに登録されるような行政システム環境が整えば、このような非常事態においても面倒な手続きから解放され国民の利便性が格段に高まるのではないかと考えます。
セキュアで使い勝手の良いデジタル社会の早期実現を願うばかりです。
執筆者:野田(5月19日作成)

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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