JASTIの策定―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊵
こんにちは。
大野事務所の今泉です。
熱中症には気を付けましょう!
さて、我が国において、「ビジネスと人権」に対する先進的な取組を行っているのは、繊維業界です。日本繊維産業連盟(JTF)は「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定し、いち早くBHRへの対応を開始しました。
このガイドラインは、前回ご紹介しました世界的基準を踏まえた内容であると同時に、活用のしやすい非常に優れたものであり、前述した「ビジネスと人権」推進社労士(BHR推進社労士)の研修にも活用されています。
そのような中、繊維業界においてBHRへの取組をさらに向上させなければならない、同それと同時に国際競争力も強化していかなければならない、といった課題意識、加えて昨年2024 年3月の閣議決定により、繊維業は「特定技能」の対象業種に追加され、同年9月に繊維業が特定技能制度の対象分野となった、という背景も手伝ったといえるのではないかと思いますが、経済産業省は、「日本の繊維産業の実態を踏まえた監査要求事項・評価基準(JASTI)」を策定しました。
「特定技能」は国内の人手不足が深刻化する中、即戦力となる外国人労働者を受け入れるために設けられた在留資格ですが、制度創設以来、その受け入れは右肩上がりで増えている状況です。
一方で、繊維企業が特定技能外国人を受け入れる際には、4つの上乗せ要件(追加要件)の一つとして、「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」が課されています。「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」とは、公開された監査要求事項等に基づき、第三者による認証・監査機関の審査を受け適合していることをいいます。
そして、この度策定されたJASTIは、「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」への適合を確認するための対象となる認証・監査の1つとなります。
特定技能外国人を受け入れる事業所が、JASTIに基づく第三者監査を受けることで、日本の繊維産業における人権に対する意識・取組の底上げを図っていくこともJASTIの大きな目的の一つといえるでしょう。
その内容ですが、「国際的な人権基準であるILO中核的労働基準を包摂した上で、社会・人権面を中心とした、中小企業等が最低限遵守すべき事項を網羅した」とされており、基本的な国内法令等に加え、一部には、国際スタンダードや人権基準に照らして取り組むべき内容(方針策定、体制構築等)を含めて構成されています。
ところで、全国社会保険労務士会連合会では、経済産業省及びJTFと協議のうえ、BHR推進社労士から、一定の要件・研修を修了したJASTI監査対応社労士を養成し、JASTI監査対応をすることが決定されています。
【JASTI運営体制図】
(経済産業省HPより引用)
このように、我々社労士もJASTIに関与する機会が設けられ、企業とともに人権を尊重する経営に取り組む専門家として支援をさせていただくことになります。具体的には次のような対応を担うことになっています。
① 事業所の職場環境の底上げとともに行うJASTI監査の事前コンサルティング
② JASTI監査 ※JASTI監査対応社労士のみ実施可能
③ より良い職場環境に向けた改善とともに行うJASTI監査のフォローアップ・コンサルティング
なお、JASTI監査の流れは次のようなものです。
【JASTI監査の流れ】
(人権DD推進コンソーシアムHPより引用)
こういった動きは繊維業界のみならず、すべての産業界に拡大していくことになるでしょう。今回はタイムリーなトピックを取り上げましたが、次回以降は企業における「ビジネスと人権」に対する取組を詳しく見ていきたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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