出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える
代表社員の野田です。今回は出来高払制(歩合給制、請負給制)給与の割増賃金(以下、歩合給割増賃金)について考察します。歩合給割増賃金について馴染みのない方も多いと思われますが、私が関与している企業様にて割増賃金に関する行政指導が立て続いたこともあり、取り上げさせていただきます。
はじめに割増賃金の対象となる賃金を確認します。
原則として「通常の労働時間又は労働日の賃金」が算定基礎額となりますが、算定基礎額から除外してよいものとして「家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」が挙げられていることは、皆様ご存知のところです。
また、出来高払制給与の定義ですが、労働法(菅野和夫著)では「労働者の製造した物の量・価格や売上げの額などに応じた一定比率で額が定まる賃金制度をいう」とされています。つまり、1ヵ月間働いた成果に対する賃金制度を指すものとしており、労働時間の対価として支給する賃金とは性質が異なります。性質は異なりますが、これらも通常の賃金と解されており次のような行政通達がでています。
○出来高払制労働者の時間外割増賃金(労働基準法第37条関係)
(問)賃金が出来高払制その他の請負制によって定められている者が、法第36条第1項もしくは法第33条の規定によって時間外又は休日の労働をした場合の賃金の支払方法如何。その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に法第36条第1項もしくは法第33条の規定によって延長した労働時間数もしくは休日労働時間数を乗じた金額のそれぞれ12割5分、13割5分を支払うべきであるか、又はそれぞれ2割5分、3割5分で差支えないか。
(答)見解後段の通り。
本通達の内容を計算式にすると「出来高払給÷支給月の総労働時間数×割増率(0.25又は0.35)×時間外・休日・(深夜)労働時間数」となりますが、事例で確認します。
【事例】支給月の歩合給額が200,000円、総労働時間200時間、時間外労働24時間、休日労働8時間、深夜労働5時間である場合
・時間外割増: 200,000円÷200時間×0.25=250円 ⇒ 250円×24時間=6,000円
・休日割増: 200,000円÷200時間×0.35=350円 ⇒ 350円×8時間=2,800円
・深夜割増: 200,000円÷200時間×0.25=250円 ⇒ 250円×5時間=1,250円
なお、上記通達によれば、「その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額」とされていることから、歩合給が日当・日額で支給される場合も通常の割増賃金計算のように日額計算式を採用するのではなく、一賃金計算期間中に支払われた歩合給の総額を当該期間における総労働時間数で除して算出するものとなります。
また、管理監督者やみなし労働適用者に対し歩合給を支給した場合も例外なく歩合給割増賃金を支給する必要がありますが、その際の総労働時間数とは何かという疑問が生じます。この点につき複数の監督署に確認をしたところ、「①実労働時間数」、「②みなし労働(1日みなし10時間など)を適用したうえでの総労働時間数」、「③労働時間の状況の把握における総労働時間数」というように、回答は様々で行政としての見解は統一されていませんでした。
①の実労働時間数を採用出来れば何の問題もない訳ですが、管理監督者やみなし労働適用者については労働時間適正把握義務の対象外となっていますし、下手に実労働時間数を把握してしまうと管理監督者やみなし労働の適用を否定される恐れがあります。一方、③の労働時間の状況の把握における総労働時間数は、労働安全衛生法による健康管理を目的(長時間・過重労働対策)として2019年に導入されたものあり純粋な労働時間とはいえません。以上から個人的には、②の労働日についてはみなし時間を適用し、休日については実時間数を把握したうえでの総労働時間数を適用することが妥当ではないかと考えますが、皆様はどのようにお考えでしょうか。
歩合給と同じ性質のものとしてインセンティブや賞与がありますが、これらは評価期間が1カ月を超えるものが通常であり「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当することから割増賃金の基礎額には含みません。歩合給割増賃金の対象となるのは、算定・評価期間が1カ月を超えない、毎月支給される月次歩合給となります。
以上の通り疑問も残るところですが、月次の出来高払制(歩合給制、請負給制)給与を導入されている企業様は、割増賃金の取扱いにご注意ください。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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