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フレックスタイム制と半休

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

長年この仕事をしていても、答えが見つからないテーマというのが幾つかあります。そのうちの1つが「フレックスタイム制と半休」の問題です。フレックスタイム制をこれから導入しようとしている会社様からは、「フレックスタイム制において半休制度は必要か?」というご質問をよく受けますし、既に導入済の会社様からも、半休制度に関連する様々な問題についてご相談を受けます。今回は、このことについて書いてみたいと思います。

 

1.裁量労働制と半休

 

本題に入る前に、似たようなご質問で、「裁量労働制において半休は必要か?」というものがあります。こちらについては、「必要ない」と言い切ってよいと思います。裁量労働制というのは、就業した日の労働時間を労使協定で定めた時間でみなす制度です。この「みなし時間」は、その会社における1日の所定労働時間よりも短く設定されることは実質的にありませんので、就業した日については常に所定労働時間を満たすわけですから、半休によって所定労働時間の不足分を補わなければならないケースが生じないということです。

 

因みに、育児介護休業法上の子の看護休暇や介護休暇における時間単位付与についてはどうかというと、かつて、時間単位ではなく半日単位が義務付けられていた当時の「改正育児・介護休業法に関するQ&A」には「裁量労働制適用者でも半日単位で請求できる」旨の解説がありました。一方で、2021年の時間単位付与の義務化に伴って公表された「子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得に関するQ&A」には、裁量労働制との関係について言及している解説は掲載されていません。裁量労働制を導入している会社は特に珍しくもないわけですから、この点きちんと厚生労働省の見解を示してほしいと思いますが、筆者個人の考えとしては、裁量労働制においては、半休も時間単位休暇も必要ない(請求が必要な場面が生じない)と思っています。

 

2.フレックスタイム制において半休制度は必要か

 

さて、本題に戻ります。
フレックスタイム制とは、労働者が始業と終業の時刻を自ら決定する制度です。自ら決定できるとはいっても、清算期間全体の総労働時間(1日の標準労働時間×清算期間内の所定労働日数)は満たさなければなりませんので、総労働時間(≒所定労働時間)よりも実働時間の方が下回ってしまう場合には、欠務を補う用途で半休を請求する余地がありそうです。

 

コアタイムを設けている場合は、特にそうです。たとえば、10時~15時のコアタイムを設けている場合、もし半休制度がなければ、午前中あるいは午後のみ勤務といったケースではコアタイムの欠務が生じてしまいますので、やはり半休制度があった方が労働者には便宜が図られているといえます。半休制度がない会社では、コアタイムのすべての時間帯を勤務できない日には、欠務の承認を得て遅刻早退するか、1日丸ごとの年休を請求するしか選択肢がなくなります。

 

コアタイムのない完全フレックスタイム制の場合でも、コアタイムを設けているケースほどではないにせよ、やはり半休制度はあった方がよいと考えます。完全フレックスタイム制の場合、1日単位での欠務は確かに生じませんが、清算期間全体としては総労働時間を満たさなければならないわけですので、1日の労働時間が短い日に半休を充当したいというニーズはあるだろうということです。

 

なお、労働基準法の観点からは、必ずしも半休制度を設ける義務はありませんので、必要ないと考えるのであれば設けないことも可能です。

 

3.半休制度の運用上の注意点

 

半休制度があった方がよいというのは以上のとおりですが、注意しなければならない点もあります。それは、フレックスタイム制における半休は、あまりにも使い勝手が良すぎるあまり、場合によっては労働者に悪用されるリスクがあるということです。

 

特にコアタイムのない完全フレックスタイム制においては、就業時間帯が特定されていない関係上、どこにでも半休を充てようと思えば充てられてしまいます。もし1日の標準労働時間を満たしている日や、ほぼ満たしている日においても半休が充当できるとすれば、とりわけ年休が時効消滅する直前の時期などに、できる限りの年休を使い切ってやろうといった乱用が横行するおそれがあります。このようなことを認めてしまうと、フレックスタイム制の本来の利点(繁閑の波に応じて、労働時間の長短を調整する)が活かされず、半休は労働時間を増やすための道具として都合よく使われるリスクがあるということです。したがって、コアタイムのない完全フレックスタイム制においては、たとえば「半休は実働時間が4時間以下の日に限って請求可」(「4時間」のところは「5時間」や「6時間」でもよい)といったルールを設けておく対策が考えられます【図①】。

 

コアタイムがある場合においては、「半休は、コアタイムの一部を就業する場合にのみ請求可」としておくのがよいと思います。コアタイムの全部を就業する場合に半休を認めないのは、完全フレックスタイム制の例で述べたように、1日のうちどこの時間帯に対しても半休を充てることを認めてしまうと、半休が労働時間を増やすための道具として悪用されるリスクがあるからです【図③】。また、コアタイムの全部を就業しない場合にも認めないのは、たとえば1日の標準労働時間が8時間で、かつコアタイムが10時~15時(昼休憩を除き4時間)の会社においては、半休を請求することでコアタイムすべてがカバーでき、半休で1日の休暇を取ることができてしまうことを防ぐ意味があります【図④】。また、コアタイムのすべてを半休で充当し、コアタイム以外の時間帯(早朝や夕刻・深夜)のみ勤務するといった、いささか規律の乱れた勤務を排除する意味合いもあります【図⑤】。

 

以上、フレックスタイム制における半休について述べましたが、運用の中で生じる問題は会社ごとに様々だと思いますので、定期的にルールを見直し、何か問題があればその都度改めていくことが重要です。なお、休暇に関する事項は、労働基準法第89条に規定されている「就業規則の絶対的必要記載事項」ですので、半休のルールについても就業規則への定めが必要です。

 

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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