在宅勤務手当の考え方
こんにちは。大野事務所の高田です。
首都圏等の一部地域に対して、再び緊急事態宣言が発出される事態となってしまいました。
これにより、昨年の春先同様に在宅勤務の動きが再び加速するものと思われます。
さて、在宅勤務制度に関するご相談の中で一番多いのは、在宅勤務手当をいくら程度支給すべきかといった内容ではないかと思います。
手当の額に関する情報としては、現状では、A社ではXX円、B社ではXX円といった断片的な情報がインターネット上である程度得られるものの、行政等による統計データとしてまとまったものは出ていないのではないかと思います。そもそも手当の支給趣旨が異なれば、その算定根拠も変わってきますので一概には言えませんが、筆者の感覚的には、分布としては概ね月額3,000~10,000円の範囲、平均を取ると月額5,000~6,000円辺りが相場のような気がしています。
上で「手当の支給趣旨」と述べましたが、それでは、在宅勤務手当は何を目的として支給しているのでしょうか?
会社によってもその考え方は色々だと思いますが、もっとも一般的なのは、「在宅勤務によって生じる光熱費や通信費等の家計の負担を補填すること」にあるようです。もしそうだとすれば、手当としていくら支給すべきかを検討する上では、在宅勤務によって光熱費や通信費等がどの程度増えるのかを試算してみる必要があるということになります。
1.光熱費はどの程度増えるのか
在宅勤務で使用する電化製品としてまず思い付くのは、①パソコン、②照明器具、③エアコン(冷暖房)の3つです。この他にも、昼食を調理するためのガス代、トイレ・洗面のための水道代等色々考慮すべき事項はあると思いますが、細かいものをすべて挙げていてはキリがありませんので、これらは④その他として包括的に捉えることにします。
電気料金の単価は従量制になっているため一律ではありませんが、筆者が調べた限りでは、1kWh当たり27円で計算するのが一般的のようです。したがって、「製品のワット数×時間×0.027」という計算式を基に、①パソコン、②照明器具、③エアコンそれぞれの電気料金を算出してみます。
①パソコンの消費電力は、ノートパソコンで20~30W程度、デスクトップパソコンで50~150W程度とのことです。これを1月160時間使用した場合の電気料金は、ノートパソコンなら86~129円、デスクトップパソコンなら216~648円となります。
②照明器具の消費電力は、LED/蛍光灯の違い、明るさ(ワット数)によっても変わってきますが、仮に60Wの蛍光灯を1月160時間使用すると、259円となります。
③エアコンの消費電力は、外気温(季節)、間取り、機種などの使用条件によって大きく変動するため、消費電力も概ね100~1,000Wの範囲で変動するそうです。付けっぱなしにしている状態での平均消費電力は、小型のもので400W程度、大型のもので800W程度とのデータがありましたので、仮にこれを基に1月160時間の電気料金を求めると、1,728~3,456円となります。
以上の①②③を合算した電気料金は、2,073~4,363円との結果になりました。これに、先に述べた④その他諸々の光熱費を加えるとしても、最大で5,000円見積もっておけば足りると思われます。なお、これは1月160時間在宅勤務を行った場合の試算ですので、在宅勤務の頻度が週2日なら2/5の2,000円、週3日なら3/5の3,000円と考えてよいのではないでしょうか。
2.通信費はどの程度増えるのか
通信費として挙げられるのは、主に⑤電話料金と⑥インターネット料金の2つです。
⑤電話料金は、固定電話/携帯電話の種別や、携帯電話を会社が支給しているのかどうか、電話を使用する頻度等の諸条件によって大きく変わってきます。ただ、業務遂行上、長時間の電話利用が見込まれている場合は、会社が携帯電話を貸与したり、インターネット通話等の格安/無料サービスを導入するなどして、従業員本人の電話料金に負担が生じないように何らかの措置を講じているものと思いますので、大雑把な試算になりますが、個人の電話料金への影響分としては、1月1,000~3,000円程度見込んでおけば一般的には充分なのではないかと考えます。
⑥インターネット料金は、固定のインターネット回線を引く場合は月額で2,000~5,000円、モバイルWiFiを利用する場合は月額3,000~6,000円くらいが相場のようです。ただし、多くの人は、在宅勤務の有無にかかわらず元々自宅にインターネット環境を構築しているものと思いますので、在宅勤務によって負担増になる分だけでいえば、料金固定制であれば実質的な負担増はありませんし、通信量による従量制であってもせいぜい3,000円程度には収まるのではないかと思います。
以上をすべて踏まえると、光熱費と通信費の負担増は、最も少ない想定で月3,000円程度、最も多く見積もったケースで月10,000円強との結果になりました。あとは、会社様がどの想定で試算するのか、また、試算した結果に対してどの程度の割合で補填するのかによって、最終的な手当の額が決まってきます。世間一般的に3,000~10,000円の範囲で多く分布しているのも、この試算結果を裏付けているように思います。
さて、それでは、手当の額が決まったとして、単純に従業員へ支給開始するだけでは、会社にとって負担増になってしまいますので、その分の原資を何らかの形で捻出する必要があります。その方法として、長期的観点では出社人数の調整によるオフィススペースの削減も視野に入ってきますが、これは一朝一夕に講じられる措置ではありません。すぐに実現可能な方法としては、やはり通勤手当を削減するのが現実的な策ではないでしょうか。
通勤手当を定期代相当額で支給している場合、在宅勤務によって出社日数が減るのであれば、定期代相当額を支給し続ける必然性がなくなります。この点、通勤手当の減額は労働条件の不利益変更の性質も帯びていますので、「必要なくなったから」との理由だけで一律に支給停止してよいという意味ではありませんが、実際に出社した分の実費支給方式への変更を早急に検討すべきだとはいえます。在宅勤務手当の相場が月3,000~10,000円くらいだとすれば、通勤手当の減少分でこれを補うことができれば理想的ではないでしょうか。
なお、今回試算したような方法により在宅勤務手当を定額の手当として支給する場合は、給与として所得税を課税する必要があり、また、割増賃金の計算基礎にも算入する必要がある点に注意が必要です。
執筆者:高田

高田 弘人 特定社会保険労務士
幕張第2事業部 事業部長/執行役員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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