平均賃金の算定は難しい!?②
こんにちは。大野事務所の土岐です。
今回の私のコラムは、前回に引き続き、平均賃金の話です。
前回は、新型コロナの影響により休業を余儀なくされたお客様から、労基法第26条に定める休業手当の支払いに際し、その手当額の計算の基となる平均賃金の算定にあたって、これまで(私にとって)相談がありそうでなかった事例について述べました。
今回は、次の2つの事例を紹介します。
- ●雇い入れが3箇月未満の場合
労基法第12条第6項では、雇い入れ後の期間から算定事由発生日までの期間で算定することが定められています。この場合でも、賃金の締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算して雇い入れ日までの期間により計算します(昭和23年4月22日基収1065号)。
ただし、直前の賃金締切日から起算すると、一賃金締切期間に満たなくなる(1箇月を下らない期間となる)場合は、賃金締切日ではなく、事由の発生日から計算を行なうこととする、とされています(昭27.4.21 基収第1371号)。
以下URLのリーフレットの4ページでは、具体例が記載されていますので、詳細はこちらを参照いただきたいと思います。
■滋賀労働局 休業手当の計算について
https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000651773.pdf
細かいところなのですが、このようにケースによって計算方法が異なることが通達で示されていますので、実務面においてはいずれのケースに該当するのか注意が必要です。
- ●雇い入れ当日に休業が発生した場合
労基法第12条第8項では、「第1項乃至第6項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。」とされており、この点について労基法施行規則第4条後段では、「雇入れの日に平均賃金を算定すべき事由の発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる」とされています。
さらに通達では、「当該労働者に対し一定額の賃金があらかじめ定められている場合にはその額により推算し、未定の場合は、その日に当該事業場において、同一業務に従事した労働者の1人平均の賃金額により推算すること」とされています(昭22.9.13発基17号)。
「推算すること」、これには困ってしまいました。具体的な算定方法が条文から読み取れないだけでなく、通達等でも確認できなかったのです。
何か参考となるものがないかと思い、事務所内の書棚のとある書籍を確認してみると、そこには雇い入れ当日の平均賃金の算定について、このような記載がありました。
『一定額の賃金が月額で定められている場合:(月額×3)÷雇い入れ当日前の3箇月間の暦日数』
ただ、書籍にも通達等の根拠は示されていなかったので、行政に電話で確認したところ、回答は「たしかに書籍に記載のとおりです」というものでした。また、「通達等により明文化されたものはなく、行政内部の取扱いである」ということでした。
これには本当に驚きました。社会保険(健康保険および厚生年金保険)では、手続き等に関して実務上の取扱いが判然とせずに悩むことが多々あり、その場合には「疑義照会」と呼ばれる年金機構内部の取扱いをまとめたものを参照することがあります(年金機構のホームページから参照可能です。ただし、非公開となっているものも多数あります)。まさか労基法に関しても、通達等に明文化されたものではなく、非公開の内部取扱いのものがあるとは思いもよりませんでした。
2回にわたってお伝えしました平均賃金に関する話、いかがでしたでしょうか。
平均賃金の原則の算定方法は理解しやすい一方、例外のケースとなると、労基法の条文、施行規則および通達を読み解く必要が出てきます。普段からこれらに精通していない限り、読み解くのはなかなか困難なのではないでしょうか。
最近、厚生労働省では労基法等の法改正の際に、改正内容に関する疑問点をあらかじめまとめ、Q&Aとして作成・公開していることが多く見受けられます。今回の新型コロナの影響により、行政には雇用調整助成金等の関係もあり、休業手当と平均賃金に関する質問が多く寄せられたことと思われます。そこで、これまで行政に多く寄せられた平均賃金の算定に関する質問をQ&Aとして公表する、あるいは平均賃金の算定が簡易となるような仕組みを構築するなど、実務対応面の負担が軽減できると良いのではないかと、今回の相談を受けて考えた次第です。
今回のコラムは以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:土岐
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