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育児休業終了時月変は奥が深い

こんにちは。大野事務所の高田と申します。

複数メンバーによる持ち回りで担当することになりました本コラムですが、私の場合は、日常の労務相談や労働社会保険手続きの実務において直面した、身近なトピックを採り上げていきたいと考えています。

 

今回は、(通称)育児休業終了時月変は実に奥が深いということについて、実例を交えながらご紹介したいと思います。

 

育児休業終了時月変というのは、育児休業(以下「育休」)から復帰した場合に、復帰日(育休終了日の翌日)が属する月以後3か月間に受けた報酬の平均額に基づいて、4か月目の標準報酬月額(以下「標報」)を改定できる制度のことです。育休から復帰する際の標報は、女性であれば産休に入る前のものであることが多いのですが、復帰後は残業が減ったり時短勤務をしたりして産休前よりも給与が下がることがよくありますので、通常の月変よりも改定の適用を受けられやすくし、育児期間中の保険料負担を少しでも軽減しようとしたのが当制度のねらいとするところです。したがって、通常の月変と比較して、①1等級差でも改定可能、②1か月でも支払基礎日数が17日以上あれば改定可能(パートや短時間労働者の場合は異なる)、③届け出るか否かは被保険者の任意、といった点が当制度の特徴になっています。

 

さて、我々社労士または会社の事務担当者は、育休からの復帰者が復帰から3ヶ月経過したところで、この育児休業終了時月変に該当するかどうかを検証します。そして、標報が1等級でも下がる場合には、当然届け出るべきものとして取り扱っていることが多いのではないでしょうか。つまり、届け出ない方がよい可能性について、普通は殆ど考えることはないのではないかと推察します。

 

以下、実例を挙げて考察してみます。

 

現行標報:30万円、復帰日:5月20日として、この方の5月~7月の給与が、5月:10万円、6月:30万円、7月:26万円だったとします。
5月は基礎日数が少ない関係で平均から除外されますので、6月と7月の平均から改定後標報は28万円と導き出され、従前よりも1等級下がることから、この場合は育児休業終了時月変(8月月変)の届け出を進めるのが是と判断されるのではないでしょうか。【図1】

図1

 

ところが、ここで着目すべきは、6月と7月の給与の変動(減額)です。この原因について会社に確認したところ、7月からは育児短時間勤務の適用を受けており、基本給を時間短縮相応分減額改定したことが判明しました。

 

そうすると、7月は固定的賃金の変動月に当たりますので、7月~9月の平均に基づき10月の月変に該当する可能性が出てきます。もし仮に、8月と9月も7月と同額の26万円を受け取ることになれば、7月~9月平均から導き出される標報は26万円になることが予想されます。

 

しかし、ここで当初検証した育児休業終了時月変を届け出て、8月から標報28万円に改定されていたとすればどうなるでしょうか。この場合は、10月月変として導き出された26万円とは1等級差しか生じないために月変には該当せず、従前の28万円の標報が継続されることになります。

 

つまり、この事例についてまとめますと、
 A 育児休業終了時月変を届け出た場合には、8月から28万円となり当面継続する

 B 育児休業終了時月変を届け出ない場合には、8月と9月は30万円のままだが、10月から26万円となり当面継続する

となります。【図2】

 

図2

A、Bいずれにせよ、いつまでこの標報が継続するのかによっても状況は変わりますが、仮に翌年の8月までこのまま改定が行われないとした場合の今年8月から来年8月までの13ヶ月分の社会保険料(令和2年5月現在協会けんぽ東京支部の健康保険料と厚生年金保険料の被保険者分合計で試算)を比較すると、Aの合計は512,694円、Bの合計は487,341円となり、Bの方が25,353円下がることが判りました。

 

それでは、育児休業終了時月変を届け出ないBの方が得なのかというと、必ずしもそうだと短絡的に結論付けられないのがこの手続きの難しいところです。もし仮にAとBの状態が1年続いた後に次の子の出産のために出産手当金を受給することになれば、出産手当金の額は過去1年間の平均標報に基づきますので、標報が高い方が受給できる手当金も高いという結果になります。ざっくりと、出産手当金を98日分受給した場合の平均標報の2万円の差は、43,512円(20,000÷30×2/3×98)との試算結果となりました。そうすると、社会保険料と出産手当金の両方を合わせて総合的に考えると、Aを選択した方が保険料は高くなるものの、出産手当金がそれ以上に増えるので結果的にはAの方がお得という結果となりました。

 

いかがでしたでしょうか。このような先々のことは、育児休業終了時月変を届け出る時点では誰にも(本人でさえも)分からないではないかとのご批判を受けそうです。まさにその通りです。

ただ私が申し上げたかったのは、育児休業終了時月変の計算結果において、1等級でも下がった場合には常に届け出た方がよいと短絡的に考えるのではなく、今回ご説明したような諸々の観点も踏まえた考察が必要であるということなのです。

 

出産・育児関連の手続きは非常に奥深く、私のように長年この仕事をしていても、次から次へと新たな事例に直面しては勉強させて頂いている日々です。今後も、このコラムの中で幾つかの事例をご紹介したいと思っています。

 

なお、今回のAとBの比較に際して、標報が下がらない方が将来の受取年金の計算上有利になるのではないかと思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、子が3歳までの養育期間中においては、申し出によりいわゆる養育期間特例の適用を受けられますので、標報が下がることによる将来の受取年金の減額はないという前提で考察しています。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

幕張第2事業部 事業部長/執行役員

一橋大学経済学部卒業。
ベンチャー企業及び大手監査法人の人事部門勤務を経て、2008年に大野事務所に入所。
人事労務に関する相談、IPO支援コンサルティング、アウトソーシング業務全般に従事。

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