通勤災害における通勤とは②
こんにちは。大野事務所の岩澤です。
今回のコラムは前回に引き続き、通勤災害における通勤の定義およびポイントの説明です。今回も通勤の定義が定められている労災保険法第7条第2項・第3項の条文に沿って説明していきます。
前回説明した内容は条文でいうと赤字部分です。まだまだ説明すべき要点はあるのですが、なかなか進んでないですね・・・今回は青字の部分について、ご説明していきます。
◆労災保険法第7条第2項・第3項◆
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。 一 住居と就業の場所との間の往復 二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動 三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。) |
労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。 |
◆次に掲げる移動◆
通勤の定義における「移動」については「住居と就業の場所との間の往復」だけではなく、その他の「移動」も定義づけられています。
1.就業の場所から他の就業の場所への移動
住居と就業場所だけではなく、就業場所から就業場所の移動も認められています。これは副業・兼業をする労働者の増加に伴い、複数の就業場所で勤務する労働者の、就業場所間の移動を労災保険で保護することが目的となります。
2.第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動
これは、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を意味します。例えば週末に単身赴任者が終業後いったん単身赴任先住居に戻り、その後、家族の住む住居へ帰る途中に被災した場合などがこれにあたります。この単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動については、おおむね毎月一回以上の反復・継続性が必要とされ、また当該移動が通勤と認められるには、就業前の帰省先住居から単身赴任先住居への移動の場合は勤務日当日又は前日に行われる移動である必要があり、終業後の単身赴任先住居から帰省先住居への移動であれば、勤務日当日又はその翌日に行われる移動である必要があります。
◆合理的な経路◆
合理的な経路とは住居と就業の場所との間を往復する場合に一般に労働者が用いる経路とされています。また、この合理的な経路は必ずしも1つに限定されるものではありません。例えば通勤手当の申請のために会社に届け出ているような公共交通機関の経路以外にこれに代替えすることが考えられる複数の経路があった場合もすべて合理的な経路となりえます。また、やむを得ず通ることとなった経路、労働者の立場を考慮すると就業のために取らざるを得ない経路も合理的な経路と認められることになります。
≪合理的な経路と認められる≫ ・タクシーを利用する場合に通常使用する経路が複数ある場合のすべての経路 ・通勤で使用していた経路が道路工事あるいはデモ行進等交通事情により迂回した場合の経路 ・出勤途中に子供を保育園に預けるために通常通勤に必要な経路から迂回した場合の経路 ・マイカー通勤者が妻の送迎のため、同一方向にある妻の勤務先を経由する経路 ・マイカー通勤者が同一方向にある妻の勤務先を経由したあと忘れ物に気が付き自宅に引き返す途中の経路 ・マイカー通勤者が合理的通勤経路から4キロ離れた妻の勤務先に妊娠8ヵ月の妻をマイカーで送りその後自分の勤務先に戻る途中の経路 |
≪合理的な経路と認められない≫ ・マイカー通勤者が妻の送迎のため同一方向にある3キロ離れた妻の勤務先を経由する経路 ・送迎手段がない社員を別の社員が通常の通勤経路を大きくそれて送迎した場合 ・鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合 ・自動車を運転し、会社の前をうっかり通り過ぎ、引き返している際の経路 |
合理的な経路と認められない場合とは特段の合理的な理由もなく著しく遠回りとなるような経路をとる場合や手段と併せて合理的なものではない場合などと解されています。妻の送迎のケースでは、妊娠している妻を4キロ先の勤務先に送迎する場合は、「妊娠している妻の送迎」という特段の理由が付されているので、認められないケースである3キロ先の勤務先への送迎よりも遠回りしているはずなのに、合理的な経路として認められています。
※通勤に通常随伴する行為に伴って特例的に使用した経路・・・ささいな行為
次回のコラムで解説しますが、通勤途上で映画鑑賞にいったり、スーパーに寄るために通勤経路を外れたりした場合には「逸脱・中断」に該当し、当該「逸脱・中断」中およびその後の移動は通勤に該当しないとされています。ですが、労働者が通勤途中で通常行うようなささいな行為については、行為自体は「逸脱・中断」と類似していますが、逸脱性および中断性が低いため、当該行為は「逸脱・中断」に該当しません。したがって、当該経路が合理的な経路なのであればささいな行為をしたからと言って、合理的な経路であることには変わりはないとされています。具体的には以下の行為が挙げられています。
≪ささいな行為≫ ・通勤途中において経路の近くにある公衆便所を使用する ・通勤経路の近くにある公園で短時間休息する ・経路上の店で煙草や雑誌などを購入する ・定期券を乗降駅以外の最寄り駅で購入する ・経路上又は駅構内でそばの立ち食い、ジュースの立ち飲みをする ・経路上の店で渇きをいやすためごく短時間お茶やビールを飲む ・経路上での占い師に短時間手相・人相を見てもらう |
◆合理的な方法◆
公共交通機関の利用、自動車・自転車を本来の用途にしたがって使用する場合、徒歩の場合等の通常用いられる交通方法は、労働者がいつも通勤手段として用いているかどうかに関わらず、一般的に合理的な方法と認められます。
≪合理的な方法と認められる≫ ・会社で禁止しているマイカー通勤による経路 ・自転車に二人乗りして帰宅する場合 ・免許更新をし忘れ無免許でのマイカー通勤 ・雪道の自転車通勤 |
≪合理的な方法と認められない≫ ・免許を一度も取得したことのないような者のマイカー通勤 ・泥酔者のマイカー通勤、自転車通勤 |
以上、今回はここまで。次回で通勤の定義、ポイント説明を必ず終わらせたいと思います。
執筆者 岩澤
岩澤 健 特定社会保険労務士
第1事業部 グループリーダー
社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。
数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!
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