TOP大野事務所コラム「給与ファクタリング」と「給与前払いサービス」の違い

「給与ファクタリング」と「給与前払いサービス」の違い

パートナー社員の野田です。今回は、報道等で違法性が問われている給与ファクタリングと給与前払いサービスの違いについて触れていきます。

 

私自身も一昨年あたりから「給与前払いサービス」について相談を受けるようになりましたが、その背景には、給与の日払い・週払いニーズが少なからずあるとのことです。以前であれば、現金を日払い支給することが通常であった業種・業態でも、個人の銀行口座等に月1回給与を振り込むことが一般的となってきたところ、DX等の進歩により、手間やコストをかけずに日払い的に給与を支給することが可能となっています。

 

問題視されている「給与ファクタリング」ですが、当該サービスの内容は、個人(労働者)が企業に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うものとされており、給料ファクタリング事業者は、個人(労働者)から直接賃金債権を買い取るものとなります。よって、個人(労働者)が給与ファクタリングを利用していることを企業は認識していません。

 

昨今、給与ファクタリング業とヤミ金業との関係に注意を促すテレビ番組や報道を目にすることが増えましたが、令和2年2月28日付の金融庁の回答書によれば「給与ファクタリングと称して、業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業法第2条第1項に定める『貸金業』に該当するものと考える」という見解が示されたところであります。

 

一方、違法な給与ファクタリングとは異なるものとして「給与前払いサービス」を提供する事業者も存在しています。当該サービスの内容は、企業の勤怠データと連携し実労働時間から給与額を算出して即日払いを行う仕組みとなっており、企業からの委託を受けて給与の立替払いを行うものとされております。サービス提供事業者は、導入企業に対し事務手数料を請求しますが、個人(労働者)に対し立替払いを行った給与に相当する債権は有しないものとなっています。

 

サービス提供事業者が、直接個人(労働者)に対し手数料を請求するか否か(個人の返還義務)という点で違いがありますが、これ以外にも貸金業に該当しないための諸条件(個人の信用調査、企業の手数料等)について金融庁が回答書を出しています。

 

なお、貸金業には該当しない給与前払いサービスについても、労基法第24条の直接払いの原則に反する可能性があります。

給与前払いサービスは、大きく2つの方式に分けられるようですが、1つは「企業が先に前払い分の給与をプールして従業員が現金を引き出す方式」で、もう一つは「サービス提供事業者が従業員への前借り給与を立て替える方式」となります。後者の方式は労基法(賃金の直接払いの原則)に抵触する恐れがあり、その場合、導入企業が処罰対象になる可能性がありますので留意する必要があります。

 

昨年(2019年)厚労省は、電子マネーでの給与支給を可能とするよう(銀行口座を介さずスマートフォンの資金決済アプリなどに送金できるよう)規制緩和することを表明しており、電子マネーでの給与支給には、外国人労働者にとっての利便性が高まることや所得税などの自動徴収が可能になることなど多くのメリットがあると言われております。現時点において実現に向けた制度緩和・法整備(労基法改正)等が当初の計画より遅れているようですが、昨年(2019年)4月より労働条件通知書等の電子文書も可能となっており電子化の波は着々と押し寄せておりますので、現実となるのも時間の問題でしょうか。

 

執筆者:野田

 

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
2024.02.28 これまでの情報配信メール
建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
2024.02.28 大野事務所コラム
バトンタッチ
2024.02.21 大野事務所コラム
被扶養者の認定は審査請求の対象!?
2024.02.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
2024.02.14 大野事務所コラム
フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
2024.02.16 これまでの情報配信メール
令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
2024.02.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
2024.02.07 大野事務所コラム
ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
2024.01.31 大野事務所コラム
歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
2024.01.24 大野事務所コラム
育児・介護休業法の改正動向
2024.01.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
2024.01.17 大野事務所コラム
労働保険の対象となる賃金を考える
2024.01.10 大野事務所コラム
なぜ学ぶのか?
2023.12.21 ニュース
年末年始休業のお知らせ
2023.12.20 大野事務所コラム
審査請求制度の概説③
2023.12.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
2024.01.17 これまでの情報配信メール
令和6年4月からの労働条件明示事項の改正  改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
2023.12.13 これまでの情報配信メール
裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
2023.12.13 大野事務所コラム
在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
2023.12.12 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
2023.12.06 大野事務所コラム
そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
2023.11.29 大野事務所コラム
事業場外労働の協定は締結しない方がよい?
2023.11.28 これまでの情報配信メール
多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて、副業者の就業実態に関する調査について
2023.11.22 大野事務所コラム
公的年金制度の改正と確定拠出年金
2023.11.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか】
2023.11.15 大野事務所コラム
出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える
2023.11.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【労働条件明示ルールの改正(2024年4月施行)】
2023.11.11 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、資格取得時の本人確認事務について
2023.11.08 大野事務所コラム
相手の立場に立って考える
2023.11.01 大野事務所コラム
審査請求制度の概説②
2023.10.26 これまでの情報配信メール
年収の壁・支援強化パッケージ、令和5年年末調整変更点について
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop