平均賃金の算定は難しい!?①
こんにちは。大野事務所の土岐と申します。
これまで4人のメンバーが寄稿してきました本コラム、今回は土岐が担当します。私からは、日々の人事労務相談および労働社会保険諸法令の手続き等について、実際の相談事例を基に、興味深いと思ったことや疑問に感じたことなどを述べていきたいと思います。
さて、初回は平均賃金の算定に関する話です。今回の新型コロナの影響により休業を余儀なくされたお客様から、労基法第26条に定める休業手当の支払いに際し、その額の計算の基礎となる平均賃金の算定にあたって、多数の相談をいただきました。
平均賃金に関しては労基法第12条第1項において原則となる計算方法が規定されており、具体的には「これを算定すべき事由の発生した日(以下、算定事由発生日)以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」とされています。その他、最低保障に関すること、算定事由発生日の直前の賃金締切日を起算とすること、計算にあたって控除すべき期間、賃金の総額に算入しないものおよび第1項の計算によらない場合の算定方法の例外に関することが第1項ただし書き以下に規定されています。
お客様からいただいた相談は、原則の計算方法および最低保障の計算に関するものが多かったのですが、中にはこれまで相談がありそうでなかった事例や、算定方法の根拠が不明で困ってしまうものがありました。その事例の一つを本コラムで紹介したいと思います。
- ●平均賃金の算定対象期間中に使用者の責に帰すべき休業期間が含まれる場合
平均賃金の算定期間中に休業期間がある場合は、その日数およびその期間中の賃金は、平均賃金の算定から控除するものとされています(労基法第12条第3項第3号)。
したがって、休業期間およびその期間に対する休業手当は平均賃金の算定の賃金総額には含めないこととなり、休業期間「以外」の暦日数および賃金額をもって算定することになります。なお、休業期間中に就業規則等に定められた休日が含まれる場合には、休業期間に含むこととされています(平22年7月15日基発0715第7号)。
例えば、基本給(月給)300,000円、通勤費10,000円、賃金締切日︓末日、算定事由発生日︓6/1、休業期間: 5/1~5/31、就業規則に土・日は休日と定められている場合、3/1~4/30の賃金総額(620,000円)を暦日数(61日)で除した金額(10,163.93円)が平均賃金となります。
さらに休業期間が延長した場合で、7/1を算定事由発生日とすると、4/1~4/30の賃金総額(31万円)を暦日数(30日)で除した金額(10,333.33円)が平均賃金となります。このように、算定事由発生日が賃金締め日をまたいだ際は再度平均賃金を算定する必要があり、休業者が多数となる場合には、算定にかかる事務担当者の負担は小さくありません。
思い起こしてみますと、これまで数日間の休業のために平均賃金を算定するケースはありましたが、1箇月以上にわたり継続的に休業するケースの相談を受けたことがなく、ありそうでなかった事例だと私は思いました。
また、休業期間が3箇月以上となった場合の算定方法についても合わせて相談をいただきました。
このように、算定事由発生日(の直前の賃金締切日)から遡った3箇月が、全て平均賃金の算定に含めない期間および賃金となる場合には、都道府県労働局長が決定することされており(労基法施行規則第4条前段)、さらに通達では、平均賃金決定基準は次によることとされています(昭22.9.13 発基第17号)。
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法第12条関係
…(略)…
(4) 施行規則第4条に規定する場合における平均賃金決定基準は次によること。
・施行規則第4条前段の場合は、法第12条第3項第1号乃至第3号の期間の最初の日を以て、平均賃金を算定すべき事由の発生した日とみなすこと。
・前項各号の期間中に当該事業場において、賃金水準の変動が行われた場合には、平均賃金を算定すべき事由の発生した日に当該事業場において、同一業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により、これを推算すること。
…(略)…
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上記の二点目に該当しない場合、一点目に記載のあるとおり、「法第12条第3項第1号乃至第3号の期間の最初の日」、すなわち、今回のケースでは、「休業期間の初日を算定事由発生日」として平均賃金を決定することになります。
ちなみに、二点目の「賃金水準の変動が行われた場合」とは、「原則として平均賃金算定事由発生日…(略)…以前3カ月間における当該事業場(例えば工員職員別にする等適当な範囲を定めることができる)の実際支払賃金の総額を労働者の延人員数で除した額と発基第17号法第12条関係4の第2項により平均賃金を算定すべき事由の発生したとみなされる日…(略)…以前3カ月間におけるそれと比較してその差が概ね10%以上ある場合をいうこと。」とされています(昭26.3.26基発184号、昭33.2.13基発90号)。
一読しただけではわかりづらいのですが、つまり、「本来の算定事由発生日と、休業期間の初日を算定事由発生日としたときの1人あたり賃金を比較し、当該金額の差異が概ね10%以上となる場合」と読み取れます。
さらに、同通達では「1人平均の賃金額によりこれを推算する」および「同一業務に従事した労働者」についても述べられているのですが、前者については特に難解です(興味がある方は通達をご確認いただければと思います)。
なお、労基法施行規則第4条では「都道府県労働局長の定めるところによる」とありますが、実務上は上記により会社側で計算するのです。たしかに、都道県労働局長(行政側)がそれぞれのケースを個別に決定するのは現実的に無理な話であるのは理解できますが、果たして会社側でこれまでに紹介してきたような通達を読み解き、適正な計算ができるのかについては大いに疑問です。
そのために我々社労士がサポートさせていただくのですが、お客様への回答にあたっては、その根拠を確認し、お示しするのが重要であるところ、根拠となる法の条文、通達等の内容および解釈を確認するのは実は大変な場面もあります(特に古い通達は読み解くのが難しいものが多いように思います)。
今回のように一定の根拠があればよいものの、別の相談事例では、算定方法の根拠が明示されていないケースがあったのです。
この続きは、次回の私のコラムでお伝えしたいと思います。
執筆者:土岐
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