問題とは、あるべき姿と現状とのギャップ
はじめまして、大野事務所の鈴木と申します。
本年より本コラムの担当に加わることになりました。
今回のテーマは私が日頃大切にしている「業務改善」、その中でも「問題」について考えてみたいと思います。
皆様は「QC活動」をご存知でしょうか?
QC活動とは、現場で起こるミス・クレーム・品質不良等の問題に対して、職場で5~10人程度の小集団(サークル)を結成し、定期的に会合を行い、問題解決を図っていく活動のことです。
活動の中ではQC的ものの見方・考え方を用いて、①問題の発見・設定、②現状の把握・分析、③諸要因の分析・原因の特定、と進めていき、原因に対して有効で実効性の高い対策を立案し、PDCAサイクルを回し対策をブラッシュアップさせ、問題の解決を図っていきます。
一連の改善プロセスはQCストーリーと称されますが、ストーリーの序盤である①・②・③は非常に重要なステップとされています。例えば問題自体が曖昧なものであったり、現状把握が質・量共に不十分だと、有効な対策が導き出せず、問題解決に時間を要する、問題が解決しない、対策が標準化されず運用が定着しない等、活動自体が無駄になってしまうおそれもあります。前職では他サークルのQC活動を支援する仕事をしていましたが、特に①・②については、そのプロセスの妥当性や納得性について、サークルリーダーと議論することが多いステップでありました。
ところで、「問題」とは、具体的に何を指しているのでしょうか?
人によって答えは様々でしょうが、QC活動の中では次のように定義されています。
『問題とは、あるべき姿と現状とのギャップ』(★)
この考え方は、言い回しは別にしても、よく耳にされるかもしれません。考え方自体はシンプルですが、この問題を発見する力(問題発見力)には大きな個人差があります。とある二人の方が同じ事象に遭遇したとして、Aさんはそれを全く問題と認識しない一方、Bさんは大きな問題と認識するというイメージです。
このような差が出てくるのは(★)の考え方に当てはめると、以下のような理由が考えられます。
A.あるべき姿(理想)をイメージできていない、あるいはそのレベルが低い
B.現状を正しく把握できていない
C.ギャップを認識しながら、どうせ無理だと諦めてしまう
Bは、現状を把握するスキルを理解し実践することで、解決が図れそうです。
Cは、改善プロセスの先を見越してしまっている(一足飛びに対策まで一人で考えてしまっている)ため、考え方の手順を一つずつ進めるよう支援すれば、他の有効な案が生み出せる可能性があります。
一番厄介かつ、多くのサークルで見受けられるのが、Aのパターンです。メンバーの多くがAの状態、誤解を恐れず言えば「問題意識が低く、現状に満足していて、今の状態が普通だと思っている」と、そもそもサークル内で問題が発見されません。会合でもメンバーから問題提起がなく、一見平和な職場のように見えます。しかし、このような職場でメンバーが認識可能な「問題」が起きたときは、職場としても会社としても重大な「問題」となっていることが多く、事後対応にあらゆるコストを要することになります。
有名なハインリッヒの法則では、1の重大な事象が起きた裏では、29の軽微な事象と300の顕在化していない事象が生じている、とされています。QC活動においては、まず問題意識を養い、29や300の事象を問題と捉え、これを未然に防止していくことが肝要とされています。
これは建設業や製造業に限った話でなく、私たち社労士事務所にとっても同じです。私たちの仕事においては労働保険、社会保険関連の手続業務、給与計算業務など、オペレーションの要素が強い業務も含まれています。特に数百名、数千名規模のお客様に係る業務は、さながら製造業の生産管理の様相を呈しています。担当者の能力に依存して属人化した作業、担当者から出力される成果物のムラ、担当者間での成果物のばらつき、前工程や後工程との調整……「もっと良く、もっと早く、もっとシンプルに」できそうな場面がしばしば見受けられます。
勿論、オペレーションは社内外や前後工程に多くの関係者が存在し、一部変更による全体への影響を十分考慮して全体最適を目指す必要があります。この調整の手間を考えて挫折してしまう方も多いのですが、ここで「どうせ無理だ」と諦めて挫折せずに、常に改善を模索していく姿勢が大切です。
※弊事務所の業務改善の取組について、過去コラムでご紹介しておりますので、宜しければご一読ください。
手続き業務のRPA化に取り組んでいます
https://www.ohno-jimusho.co.jp/2021/06/09/20210609/
人事労務領域においてはセンシティブな事案も多いことから、1の重大な事象が及ぼす影響は大きいと言えます。対応に多大な時間を要したり、その過程で担当者が疲弊し、職場全体に悪影響が広がることも十分想定されます。私たちは日頃、お客様から人事労務領域のご相談を頂きますが、その多くは29や300の事象を、お客様が問題としてキャッチアップされたものであり、その問題意識の高さに私も身が引き締まる思いです。
私たちも職務領域全般に、引き続き高い問題意識をもって仕事に取り組むことの重要性について、最近改めて思いを強く致しましたので、今回は「問題」について取り上げてみました。
「問題」とはある意味、改善への伸びしろであり、ポジティブなものと考えられます。
皆様の職場でもたくさんの「問題」が見つかり、改善に向かっていくことを願っております。
執筆者 鈴木
鈴木 俊輔 社会保険労務士
幕張第2事業部 スタッフ
秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。
大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.05.01 大野事務所コラム
- 改正育児・介護休業法への対応
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 所得税、個人住民税の定額減税について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
- 2024.04.24 大野事務所コラム
- 懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
- 2024.04.17 大野事務所コラム
- 「場」がもたらすもの
- 2024.04.10 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性
- 2024.04.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
- 2024.04.03 大野事務所コラム
- 兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
- 2024.03.27 大野事務所コラム
- 小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
- 2024.03.21 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2024.03.20 大野事務所コラム
- 退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
- 2024.03.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
- 2024.03.21 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
- 2024.03.26 これまでの情報配信メール
- 「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
- 2024.03.13 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正動向
- 2024.03.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
- 2024.03.06 大野事務所コラム
- 有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
- 2024.02.28 これまでの情報配信メール
- 建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
- 2024.02.28 大野事務所コラム
- バトンタッチ
- 2024.02.21 大野事務所コラム
- 被扶養者の認定は審査請求の対象!?
- 2024.02.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
- 2024.02.14 大野事務所コラム
- フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
- 2024.02.16 これまでの情報配信メール
- 令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
- 2024.02.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
- 2024.02.07 大野事務所コラム
- ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
- 2024.01.31 大野事務所コラム
- 歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
- 2024.01.24 大野事務所コラム
- 育児・介護休業法の改正動向
- 2024.01.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
- 2024.01.17 大野事務所コラム
- 労働保険の対象となる賃金を考える
- 2024.01.10 大野事務所コラム
- なぜ学ぶのか?
- 2023.12.21 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2023.12.20 大野事務所コラム
- 審査請求制度の概説③
- 2023.12.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
- 2024.01.17 これまでの情報配信メール
- 令和6年4月からの労働条件明示事項の改正 改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
- 2023.12.13 これまでの情報配信メール
- 裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
- 2023.12.13 大野事務所コラム
- 在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
- 2023.12.12 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
- 2023.12.06 大野事務所コラム
- そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚