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As is – To beは切り離せない

こんにちは、大野事務所の鈴木です。
本日は、問題解決における現状把握の重要性についてお話させて頂きます。

 

1.現状把握

 

先日外部研修に参加した折、「As is – To be」というフレーズを耳にしました。

以前コラムで述べたように、問題とは「あるべき姿と現状のギャップ」を指します。これを言い換えた言葉として有名なもので、私の大好きなフレーズの一つです。QC活動は、①問題の発見・設定、②現状の把握・分析、③諸要因の分析・原因の特定……と活動を進めていきますが、以前は①にスポットを当てましたところ、今回は②現状の把握・分析に着目してみます。

 

テーマ設定で活動の方向性を決めた後、問題の内容を具体的に明らかにしていくフェーズとして、現状把握は非常に重要なプロセスです。現状把握とはいわば問題のデータ化であり、問題解決の定量的なモノサシを探す作業です。その切り口は様々ありますが、オーソドックスな手法をいくつかなぞっていきます。これらは問題発見にも役立ちますが、現状把握でどのような事象や数字を拾うべきか、というヒントにもなります。

 

◆5W2H
「いつ起きているか?」「どこで起きているか?」「誰が起こしているか?」「何が起きているか?」
「なぜ起きているか?」「どうやって起きているか?」「どの程度の損失か?」
問題の所在や程度を深掘りしていく問いのフレームワークです。単に「5W2H」と唱えるのでなく、実際に上記の台詞に言い換えて起きている事象を問い直してみてください。これだけでも問題への感度が高まります。特に「なぜ?」は、”なぜなぜ5回”という言葉に象徴される要因分析に繋がる、重要なキーワードです。

 

◆3ム
「ムダ」「ムラ」「ムリ」の頭文字をとったものです。
「ムダ」「ムリ」は見えやすいのですが、「ムラ」を深堀りすると意外な問題点が見つかる可能性があります。

 

◆3匹の豚
「うーうー」「ぶーぶー」「ふーふー」の鳴き声からとったものです。
「うーうー」は苦しみ、「ぶーぶー」は不満、「ふーふー」は必死な様子を表すもので、「3ム」と通ずるものがあります。

 

◆3現主義(5ゲン主義)
「現地」「現物」「現実」の頭文字からとったもので、さらに「原理」「原則」が追加されることもあります。
実際に自ら足を運んで、物を触って、問題が起きているその場を体感する重要性を示したもので、個人的には『踊る大捜査線』を思い出させる素敵なフレーズです。「原理・原則」を追加することで、本来のあるべき姿を問い直すきっかけにもなります。

 

◆三方よし
近江商人の有名な格言(哲学)です。
「買い手」「売り手」「世間」は、そのままCS、ES、CSRに置き換えることができます。特にCS偏重を是正するのに効果的で、今はESをエンゲージメントに置き換えるのもよいかもしれません。

 

◇人・モノ・金(・情報)
経営の3資源(4資源)から、問題点を考えていく手法です。

 

◇4M
「人」「設備・機械」「方法・順序」「材料・モノ」のアルファベットの頭文字をとったものです。

 

◇オズボーンのチェックリスト
「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「再配置」「逆転」「結合」のキーワードから事象を捉え直します。
今一つピンとこないのが正直なところですが、「逆転」「再配置」は頭を柔らかくしてくれる効能があると思います。

 

他にもSWOT分析とかPEST分析とか、様々な手法が考えられますが、私自身はあまり馴染みがないものでした。とりわけ自社内の問題解決に特化するのであれば、問題の発見と把握すべきモノサシの設定は、自社内に目を向ければ足りることが多いため、これらのシンプルなフレームワークの方が考えやすい面もあります。シンプルながらも十分実用に耐えるもので、しっかり突き詰めて問いを繰り返せば、重要な問題やモノサシが必ず見つかります(これらの問いに満額回答できる会社や組織は、おそらく存在しません)。ここで磨いた「現状把握力」は、社外の問題に目を向けようとしたときや別の分析手法を試すとき、必ず役立ちます。

 

話が逸れますが、問題が多すぎる(ように見える)のも悩ましいものです。問題が全く出てこないのも考えものですが、解決したい問題は山積み、しかしリソースは限られているという場面では、パレート図やグラフ、散布図で主要な問題を明らかにし、重要な問題に絞り込む必要があります。前職ではよく「悪さ加減を明らかにしてください」と声掛けしていたことを思い出します。

 

 

2.As is – To be

 

さて、件の研修にて印象的だった言葉があります。それは「To beがなければAs isは単なる事象にすぎない」。当たり前のようですが、事象と問題が混同されることは存外多いものです。例えば、ある会社で労働時間の調査をした結果、毎月40時間近く残業している社員がいることがわかったとします。

 

これは果たして問題なのでしょうか?毎月40時間近く残業していること(As is)が問題なのではなく、
・それにより、本人が体調不良で休むことが増えてきたため、要員計画に穴をあける可能性があるとか、
・それにより、本人の損益分岐を下回って、部門の利益目標が達成できなくなる可能性があるとか、

 

その会社がどのようなTo beを掲げているかによって、問題自体が変わったり、そもそも問題ですらなかったりします。ギャップこそが問題だと意識すれば、As isとTo beは切り離せないものだとご理解頂けるかと思います。講師の方が「片方がないのであれば、もう片方も必要ない」と端的に仰ったのも、決して言い過ぎではありません。

 

かつて、現状把握においてとりあえず多くの現状をかき集めて、その中から事象を拾い上げて分析する場面をしばしば見かけてきましたが、限られたリソースの中で非効率な現状把握となる可能性があります。有効なモノサシを探すには時間と根気と、多くの関係者の協力が必要となるため、現状把握は非常にしんどいプロセスであるところ、問題解決に必要のない事象の収集は極力少ない方が望ましいです。入口は「広く浅く」で構いませんが、早い段階でドリルダウンして「狭く深く」への移行を目指します。

 

他方、そこまで緻密に計画を立ててから現状把握を進めないといけないのか、と不安や不満を覚えられるかもしれません。そこで、方向性が決まった段階で「これは必ず必要になるだろう」と予測して現状把握を開始することは有り得ます。当オフィスは10階に入居していますが、昼に外食するのであればエレベーターで下に降りる必要があります。ですから「とりあえず下まで降りようか」ということは、あってよいかと思います。下に降りてみてわかることもあるかもしれません。とはいえ、下まで降りたらいよいよ、どのお店の方に歩いて行くのかを決めなければいけません(大体私はいつも決めあぐねるのですが……)。

 

このように「走りながら考える」と決めたときは、現時点で思いつく限りプランを出しておくとよいでしょう。現状把握で徐々に状況が明らかになる過程で、プランを取捨選択していくことが考えられます。加えて「いつ決めるかを決める」という”決め”のリミットを設けることも重要です。どんなに遅くとも、現状把握が出尽くすまでに決めなければ、結果として多くの現状をかき集めてしまったことになります(多くの現状をかき集めてないのであれば、その現状把握は「狭く浅く」に陥っている可能性があります)。

 

 

3.省みると……

 

ところで、私たちのグループでは「1日15分の”余白”をつくる」ことを理想(To be)としていますが、中々そうなっていない現状(As is)があります。

このギャップを埋めたいのですが、私自身なかなかどうして、抽象的で精神論めいた、場当たり的な対応に終始しているのが実情です(まさに、現状把握で躓いているためです)。問題解決を次のステップに進めるためにも、あの頃の自分に「まずは悪さ加減を明らかにしてください」と喝を入れられたいなと思うこの頃です。

 

執筆者:鈴木

鈴木 俊輔

鈴木 俊輔 特定社会保険労務士

第3事業部 グループリーダー

秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。

大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。

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